どんどん増えてます!木造アパート
最近、木造2~3階建ての新築アパートが増えてきました。
筆者の住む地域(大阪市内)にもどんどん建っています。
(徒歩圏内で見ても、この数年で7~8軒は新築されてますね)
戸数はワンルームか1LDKで6~12戸、
敷地は30~40坪で一戸建て2~3つ分の広さでしょうか。
外観もよく似ていて、一見すると全て同じシリーズかと見間違う程です。
これだけたくさん建っているので、普通に考えれば、ワンルームや1LDKの木造アパートに住みたい人が多いエリアなのかと思われます。
ニーズが高いからこそどんどん供給されているのだと。
一般的な商品であれば、「需要があるから供給される」という経済的な法則が当てはまりますが、対象が木造アパートである場合には、経済的な法則とは別の力が働いていることがあります。
個人的な見解になるかもしれませんが、筆者の住むエリアでは「ワンルームや1LDK」のような単身者のニーズよりもファミリー層のニーズの方が高いエリアだと感じています。
なのに、単身者向けの「ワンルームや1LDK」の木造アパートがどんどん建てられていく、、。謎ですね、、。
その謎を解明するためには「税金」のことを少しだけ知る必要があります。
税金の力が働いていた!
木造アパートの建設ラッシュは、「住む側のニーズ」は高くなくても、「建てる側のニーズ」が高くなるという経済の法則と違った動きをします。
その理由について、結論から簡単に述べると、
「木造アパートの建設が相続税の節税に有効である」
というのが、木造アパートがどんどん増えていく理由の説明となります。
つまり、住みたいニーズがあるから木造アパートがどんどん建てられていくのではなく、建てる側にとって節税になるからどんどん建てられていくのです。
次は、その節税になる「からくり」を簡単に説明していきたいと思います。
(ここでは「簡単に」「骨組みだけ」「細かいところは省いて」説明します)
第一章:相続税「大増税」時代の到来>
ご存じの方も多いでしょうが、相続税は法律が改定され、相続税を支払わないといけない人が増えました。
かつては、控除枠といって「相続の額がいくらまでなら、相続税は払わなくてもいいですよ」という金額が多かったため、相続税を支払う人は資産家と言われる人たちだけでした。
ですが、法律が改正されたことによって、この控除枠が減ったため、資産家で豪邸に住んでいる人だけでなく、場合によっては、都心部にマイホームを持つ普通のサラリーマン家庭も相続税の対象になりえることになったのです。
控除枠はどれぐらいになったかと言うと、
「3000万円+600万円×相続人の数」となります。
例で言うと、
父親・母親・子供1人の家族で、父親が亡くなり相続が発生したとすると、
相続人は母親と子供1人なので2人となり、3000万円+(600万円×2人)=4200万円
4200万円までが控除枠となり、相続額が4200万円以下なら相続税を支払う必要はありません。
この例でもう少し続けてみていくと、
預貯金などで1000万円、土地建物の評価額が3500万円程度あるとすると4500万円になり、4200万円を超えていますので、相続税を支払う対象者になります。
都心部であれば、普通のマイホームであれば3000~5000万円ぐらいの評価額に簡単になってしまうことでしょう。
これが相続税の「大増税時代」と呼ばれる所以です。
第二章:相続税対策がトレンドに
このような相続税の「大増税時代」になると、節税対策がトレンドになります。
「資産は持っているだけでは税金で取られるだけ。資産は活用して節税しないとダメだ。」というのが流行るのは当然と言えるでしょう。
そこで登場するのが「木造アパート」となるのです。
相続税は資産額に応じて税金がかかります。(ざっくりですが、相続人が配偶者と子供1人の場合、「資産1億円で約400万円の相続税」を支払うことになります)
その資産額というのがそうそう単純ではありません。
資産には簡単に価値が分かる現金や預貯金だけでなく、土地や建物が含まれるためです。(一般的に資産の70%は不動産で構成されています)
現金で1億円持っている場合には、そのまま1億円が資産額とみなされます。
しかし、その1億円で土地を購入した場合には約8000万円が資産額とみなされます。
現金1億円を土地1億円分に変えただけなんですが、土地なら約80%で評価されることになるのです。(20%の資産の圧縮)
また、土地の上にアパート等が建っている場合には、もっと低く評価されることになります。
これは、現金より土地、土地だけより他人が住む土地の方が、所有者にとって動かしにくく、都合の悪いものになります。資産の流動性という観点から、現金よりも土地や他人が使っている土地の方が低く評価されるのです。
そして、もう一つ。借金はマイナス評価になります。
現金1億円を持っているが、ローンなどの借金が1億円ある場合は、資産額はゼロとなります。
つまり、借金をしている方が節税になるのです。
まとめると、
・現金より土地、ただの土地よりも他人が住む土地、に資産を交換していく方が節税になる
・借金をしている方が節税になる
なので、親から相続した土地を持っている場合、その土地を担保にして借金してアパートやマンションを建てた方が資産が少なく評価され、節税になるのです。
相続税対策のひとつで、資産の形を変えて評価を減らす「資産の圧縮」というやつですね。
第三章:なぜ「木造アパート」なのか
最後になぜ「木造アパート」なのか、という点についても簡単に説明を加えておきます。
これもまた税金の話です。「減価償却費」という言葉を聞いたことはありませんか?
減価償却とは、長期にわたって業務のために用いられる固定資産の取得にかかった費用を、耐用年数に応じて分割して費用に計上することを言います。
「経費に計上できる」というのは「利益(売上-経費)を減らせる」ことができ、利益に対して税金はかかりますので、節税には経費をたくさん計上できる方が良いのです。(1000万円の売上で経費が200万円であれば利益の800万円に対して税金がかかります。経費が増える方が税金は安くなりますね)
例えば、工場を経営する会社が新しい機械を買った場合、その機械を買ったお金は事業に必要なものなので、経費になるのは分かると思います。
しかし、帳簿に経費として書いて計上するのは、「その機械を買ったときに一回で計上する」のではなく、機械の耐用年数に応じて分割して経費に書いていく、というのが税金のルールなのです。
(耐用年数10年の機械を1000万円で買ったなら、その機械を買ったときに1000万円の経費を計上するのではなく、100万円の経費を10年間にわたって計上していくことになります)
「アパート経営」という事業をするにあたって、「建物」を建てるのにかかったお金は「経費」とすることができるんですが、その経費は「耐用年数に応じて」分割して計上することになります。
その耐用年数が「木造なら22年で、最も短い」のです。(SRC造・RC造なら47年)
木造アパートなら建物を建てるのに2200万円かかったなら、100万円を22年間は経費として計上することができるのです。
これがRC造のマンションなら耐用年数は47年。約47万円を47年間にわたって経費計上していくことになります。木造の半分以下しか節税効果はありません。
税金の話なので小難しい話が多くなりましたが、「木造アパート」が増えている理由が相続税対策であるのはご理解いただけましたでしょうか。
今回のまとめ
・今は相続税の対増税時代になって、節税対策がトレンドに
・節税対策には資産の評価を減らす(資産の圧縮)
・資産評価を減らすには「現金を土地に、土地にアパートを、作れ借金を」が有効な節税対策に
・木造アパートが耐用年数が一番短く、減価償却の点で節税効果が高い
最後に
そして、勘の鋭い方は何か違和感を覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「相続税対策としての木造アパートの有効性は分かったが、本当に大丈夫なの?」
節税が非常に大切なことであるのは間違いありません。
ですが、これはアパート経営という「事業」を始めることとも言えます。
事業である限り、経済的な法則ではなく税金の力学で動いているのは如何なものか、、。
アパート経営を節税という単一の視点だけで始めるのは、実は非常に危険です。
その論点については、また別の記事にて書いていきたいと思います。