相続対策の基本

2015年以降は相続税が改正され、「相続税大増税時代」と言われるような時代となりました。
2015年より前では、相続が発生した世帯の4%(25人に1人)だったものが、2015年以降は8%(12人に1人)に増えました。
土地の資産価値が高く評価される東京都内では亡くなった人の2人に1人は相続税を支払う対象になるようです。
かつてなら富裕層・資産家と呼ばれる人のみが対象でしたが、都市圏でマイホームを持っているだけの一般家庭も相続税の対象になる可能性が高くなります。

そんな時代背景もあり、今は相続税対策が大流行しています。
今回は「相続税対策の基本」についてざっくり説明をしていきたいと思います。
相続で揉めないための「争続対策」ではなく、あくまで「相続税の対策」に焦点を絞っています。

相続には様々な専門家が存在します。税理士や弁護士などの法律家、相続コンサルタントや金融機関、保険業者、不動産業者など。非常に多くの専門家が関わるのが相続です。
筆者としては、相続税の対策を考える際には、「不動産の専門家」が一番重要であると考えます。
その理由は、簡単です。相続税は亡くなったかたの持つ「資産」に応じて課税され、その「資産の70%は不動産」だからです。
相続税対策と言えば、税理士さんが一番最初にイメージするかもしれません。
しかし、税理士という職業は税の計算・申告のサポートになり、「相続税がいくらかかるかを正確に計算する」ことについてはどの専門家よりも高い能力を持っています。(むしろ「税務の代理」「税務書類の作成」「税務相談」は税理士の独占業務で、他の専門家がするのは違反です。)
しかし、税理士は不動産についての専門家ではありません
不動産の実務にも精通している税理士さんもいらっしゃるかとは思いますが、最近の住宅ニーズや満室にできるリーシングの方法にいたるまで、しっかりと把握している税理士さんはなかなかいるもんではありません。
税理士さんの業務は非常の高度であり多忙です。税理士業務をしながら不動産の専門知識まで持つのはなかなか難しいのが現状です。

しかし注意しないといけないのは、不動産の専門家であれば誰でも「相続税の対策」ができるかという問題です。
実は、不動産業者の中にも様々な「住み分け」があります。
賃貸仲介といって「お部屋の紹介」を中心にしている業者、中古物件の売買を専門にしている業者、新築の建設と販売を主にしている業者、など得意分野は様々です。
ここでの「不動産の専門家」とは、「不動産による相続税対策も熟知している不動産業者」を想定してください。

前提となる話が長くなりましたが、本題の「相続税対策の基本」を確認していきたいと思います。

相続税対策の基本
資産の把握
資産の圧縮
資産の分割
納税資金対策

⓪相続税対策の基本 エピソードゼロ:「資産の把握」
相続税対策の前提となるのは、何といっても「資産の把握」からです。
資産がどれだけあるか分からないと、当然に対策はできません。
まだ相続が始まっていない段階(相続税対策をする段階)では、「資産の把握」については、「正確でなくても良い」であると覚えていてください。
なぜなら、正確なものは実際に納税する際で十分ですし、また、資産価値は年々変化するものだからです。(土地の値段は上がったり下がったりしますね)
また税制や資産の評価基準も変わる可能性も十分に考えられます。
そのため、相続税対策を考える際には、細かな数字でなくていいので、「自分の資産がどれぐらいであるかを把握する」ことが重要です。
健康を考えて何か対策をしようするなら、毎年健康診断に行って、自分の健康状態を把握するのが当たり前だと思います。
資産についても同様で、最低でも毎年一回は「資産の健康診断」をするのがポイントです。

そして。「資産の把握」は何も税理士さんに頼む必要はありません。
実際の納税の際には税理士さんに依頼するのが良いかと思いますが、「資産の健康診断」の際には、自分でも十分計算できますので、費用をかけるのはお勧めしません。

自分で資産を計算するには、
・現金は100%
・建物は50%
・土地は80%
・ローンはマイナス100%
と考えて計算してください。

つまり、現金で1億円を持っていれば、資産は1億円。(1億円×100%)
1億円の土地を持っているならば、資産は8千万円。(1億円×80%)
1億円の土地を持っていて、ローンが5千万円あるなら、資産は3千万円。(1億円×80%-5千万円)

土地の評価額は「路線価」で計算します。
「路線価」とは、道路に面している土地の相続税評価額を1㎡あたりで示すものです。国税庁が定めています。(路線価とネット検索すればすぐに出てきます)
「1㎡あたり30万円の道路に面した土地が100㎡持っているとすると、3000万円(30万円×100㎡)を相続税の評価額としますよ」
というものです。
路線価は実勢価格(実際に売買される値段)の80%ぐらいになりますので、「土地なら80%」で計算すればいいというワケなんです。
厳密にいえば、土地の形で補正率があり数%減りますが、「資産の把握」が目的ですので、細かな数字は無視して大丈夫です。
土地の形での補正は数%減ることはあっても増えることはありません。資産の健康診断の段では、ほんの数%多めに見積もって計算しておけばより安心です。

また、建物は、「固定資産税評価額」で計算します。
「固定資産税評価額」は、各自治体の固定資産評価員が1軒ずつ確認して決められています。
そのため、個々の不動産によって評価は違うので、調べたい場合は、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書に付いている「課税明細書」を確認するのが一番確実です。

そしてここで、相続税対策の基本政策について確認しておきます。
相続税を節税する枠組みは実は足し算引き算の計算だけです。
相続税を節税するためにできることは、
資産の評価を減らす
→資産を組み替えて評価だけを減らすようにする(例:現金を不動産に組み替えて評価を減らす、など)
非課税の資産を増やす
→相続税の対象にならない資産を増やす(例:生前贈与を非課税枠を利用して資産を減らす、など)
控除枠を増やす
→控除とは課税額から一定の金額を差し引くこと。相続税の基本控除として「3000万円+600万円×相続人の数」は控除されます。(例:養子を取り相続人を増やす、小規模宅地等の特例など控除枠を使う、など)
の3つだけです。
この3つの足し算引き算で節税効果を予測して対策を打っていくのです。

①相続税対策の基本 その1:「資産の圧縮」
資産を把握し、相続税の対策の必要性があると判断したならば、次は「資産の圧縮」です。

「資産の圧縮」のポイントは「持っている資産の価値を下げずに評価だけを下げる」ことです。
あくまで「圧縮」ですので、単に「資産を減らす」のではなく、「資産の形を変えて評価を減らす」ことがポイントです。
つまり、高く評価される資産ではなく、保有していても「低く評価されるもの」に持ち替えましょう、ということです。
「資産の圧縮」では、基本的に「不動産」を利用します。保険商品や非課税に案る特例などを利用する方法もありますが、基本となるのはやはり「不動産」です。
現金1億円は相続税の評価としても1億円として評価されます。
しかし、その1億円で土地を購入すれば、「土地は80%」で評価されることになるので、8千万円の評価になります。
現金を土地に交換すると、相続税としての評価は20%減らせるのです。
その土地を担保にして、5000万円のローンをして、アパートを建てるとするとどうなるでしょう。
まず、建物6000万円分の資産が増えますが、「建物は50%」なので3000万円の評価が増えることになります。(土地8000万円+建物3000万円
=1億1000万円)
次に、「ローンはマイナス100%」なので、ローン額の6000万円分評価が減ります。(1億1000万円-6000万円=5000万円)
ということで、現金1億円なら1億円の評価ですが、土地と建物に交換し、ローンを組めば、5000万円の評価にまで下がります。
このように資産を組み替えて、評価を下げれるように対策することが「資産の圧縮」です。

相続税対策の基本 その2:「資産の分割」「納税資金対策」

資産を把握し、資産を圧縮して節税対策をしても、相続税対策は終われません。
実際には「資産を相続人にどのように分けるするのか」「納税するためのお金はどうするのか」
「資産の分割」については、まさに相続で争う「争続」にならない対策です。
ここでは細かなことは割愛して、「相続される人の意思を明確に保存しておく」ことが最大のポイントとなります。
残せるだけの資産を持つ者として、「争う余地のない状態」を作っておくのが義務だと思います。
「贈与」で争うことはあまり聞いたことがありません。
これは贈与する人の意思が明確にあり、いつでも意思決定を下せる状態にあるからです。
もし贈与することで揉めたとしても、贈与する人が揉めてる双方の意見を聞き、その上で贈与について意思決定すればいいからです。
でも「相続」では争いが絶えません。仲の良い兄弟も相続をきっかけに縁が切れたこともよくよく耳にします。
それは、相続される人は亡くなっており、もう意思決定をすることができないからです。
与える側が意思決定できる状態にあれば、争うことにはなりません。
相続で争う場合は「与える側が意思決定できる状態にない」ことに最大のネックがあります。
正しい方法で遺言書を残し、残す側の意思決定を明確にする。
そして、争ってしまう可能性も十分考慮して、意思を残しておくのがポイント。
相続は「性悪説」に立って想定していおくのがベターですね。
お金が絡むと人は変わるもんです。

「納税資金対策」は、現金の確保についてです。
基本的に相続税は現金で納付することになります。
そのため、全ての資産を現金から不動産に変えてしまえば、納税するための現金がなくなります。
大きな一筆の土地を持つ大地主さんが相続するとなった場合、納税するための現金が用意できないと土地を売却して支払わなければなりません。
そうなれば、先祖代々受け継いできた土地であっても手放すことになってしまいます。
そうならないように、小さめの戸建て住宅を購入しておいて、相続の際には売却して現金にする、というような対策を考えておく必要があります。
節税だけを考えるだけでなく実際の納税のことも考えておく必要があります。

不動産と相続税を絡めて考える際、
「資金の圧縮」に対しては不動産は効果を発揮します。
しかし、不動産だからこそ「資産の把握」がしにくくなり、不動産だからこそ「資産の分割」がしにくくなり、不動産だからこそ「納税資金対策」がしにくくなります。
不動産をどうやってコントロールしていくかが相続税対策のカギとなるのです。

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